触媒とは何でしょうか?辞書や化学の教科書によれば、「触媒は、化学反応においてそのもの自身は変化しないが、反応速度を変化させる物質」とあります。確かに一言で言えばその通りですが、化学を知らない方にとっては、何のことかさっぱり分からないと思います。まずは、人間の体を例にとって、触媒・触媒反応について説明したいと思います。
人は、米や麦、肉や魚、野菜などの食物から栄養素を取って、活動、成長しています。食事をすると体内では、米や麦などの炭水化物はブドウ糖に、肉や魚などのタンパク質はアミノ酸に、脂肪は脂肪酸等に分解され吸収されます。この分解にはそれぞれの反応に適した消化酵素が働いており、酵素は分解反応の前後で変化せず、反応のみを促進する働きを持っています。この消化酵素のように、反応の前後で状態が変化せず、化学反応を手助けするものを触媒と呼びます。酵素も触媒の一つであり、生体触媒とも呼ばれています。
では、そのもの自身が変化しないとはどういうことでしょうか?中学校で習う化学反応を例に説明しましょう。中学校の理科の教科書に、酸素を発生させる方法として、うすい過酸化水素水(オキシドール)に二酸化マンガンを加える方法が載っています。これを化学式で書くと以下のようになります。
MnO2
2H2O2 → 2H2O + O2
この反応で、二酸化マンガンは反応前後で変化しないことから、触媒と呼ぶことができます。この反応ではオキシドールにじゃがいもを加えても酸素が発生します。これは、じゃがいもに含まれるカタラーゼという酵素が過酸化水素の分解を促進させているためです。このカタラーゼも反応の前後で変化しませんので、触媒と呼ぶことができます。
中学校の教科書には、水素を発生させる方法として塩酸に鉄を加える反応も載っています。塩酸に鉄を加える反応を化学式で書くと、下記のようになります。それでは、この反応で鉄は触媒として働いているでしょうか?
Fe + 2HCl → FeCl2 + H2
答えは×です。鉄は塩酸との反応で塩化鉄に変化しているので、この反応では触媒と呼ぶことはできません。
触媒の意味がなんとなく分かってきたところで、もう少し触媒の性質について説明したいと思います。高校の教科書などで下のような図を見たことはないでしょうか?
化学反応における物質のエネルギーの状態と触媒反応を示した図です。物質が化学反応を起こすためには、反応物は一旦、原子間の組み換えを起こしやすい状態(活性化状態)になる必要があり、この状態になるためのエネルギーを活性化エネルギーと呼んでいます。触媒を用いると、この活性化エネルギーが下がり反応が進行しやすくなります。それでは何故触媒が存在すると活性化エネルギーは下がるのでしょうか?
実は触媒反応では、反応物は触媒との弱い結合によって別の化合物(反応中間体)となり、この反応中間体を介して反応が進行していています。この反応中間体の形成と分解がエネルギーの低い状態で進行するため、反応が進行しやすくなっているのです。
触媒は反応の前後で変化しないと説明しましたが、反応の途中では変化しているのです。触媒には、反応物と素早く反応中間体を形成すること、目的とする反応のみを特異的に行うこと、生成物との分離後は変化せずに素早く元の状態に戻ることが必要になってきます。
それでは、触媒にはどのようなものがあるのかを見ていきましょう。触媒は、大きく分けて二つの種類に分けることができます。均一系触媒と不均一系触媒です。均一系触媒は、溶液などに溶けて働く触媒で、酸や塩基、金属に有機化合物が結合した錯体触媒などがあります。均一系触媒は、多くの有機合成反応に用いられており、反応物質とともに溶けて働くことから、目的の反応のみを特異的に行う場合などに適しています。
もう一方の不均一系触媒は、固体状態のまま働く触媒で、金属酸化物や、活性炭やアルミナなどの担体に貴金属などの活性成分を固定化させた担持触媒などがあります。不均一系触媒は、生成物との分離が容易であることや、繰り返し使用が可能であることなどから、化学物質を大量に生産する工業プロセスや、自動車の排気ガスの浄化などに用いられています。